夏、7歳の思い出(1) [小説]
いくつか読んでいるブログで自作小説を見かけ、読んでいるうちに
自分も書いてみたくなってしまったのは、単なる好奇心。
So-net Blogが開催している「ゴールデンブログアワード」。
このテーマに乗って書いてみることにしました。
たまにはいいかな、こういうのも。
主人公の名前は、カルディアの頭文字「K」からとって「ケイ」。
以下の物語はフィクションです。
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7歳の夏。
岩手の親戚の家へ、母親と2人で泊まりに出かけることになった。
母方の親戚にあたるその家は、海にほど近い場所にあって、夜になると海からの風が心地良く吹き入れる。その風にのって、鈴虫の合唱も聞こえてくる。"田舎の家"という代名詞が当てはまりそうな一軒屋。そこで5日間を過ごすことになった。
昼間は近くの河原で、見ず知らずの地元の男の子たちとザリガニや魚を採って遊ぶようになった。元々人見知りをする私は、初日は声もかけられず、その子たちを遠目に見ながらひとりで遊んでいた。2日目には、知らないうちに一緒になって川を泳ぐ魚たちを追い掛けていた。また遊ぼうね、という言葉をかけられ、夕日に向かって消えていくその子達を笑顔で見送った。
3日目は雨が降り、外には出られなかった。遊ぶ物をいくつか持ってきてはいたが、半日もすれば飽きてしまう。
昼を過ぎる頃には雨足が弱くなってきていた。そこへチャイムの音がポンと鳴る。現われたのは近所に住む叔母さんの友達。あいさつを交わした後、家に上がって会話を始める。そこへ私の母親も一緒になって、いつしか大人たちだけの談話がはずむ。
完全にひとりきりとなってしまった私は、話し相手もいない別の部屋で外を眺めていた。すると、後ろからだれかに声をかけられた。
「こんにちは」
やや震えの混じるその声に驚いて振り向くと、同じぐらいの年の女の子が、開いた襖に片手を添えながら立っていた。
「うん……」
と、自分もあいさつ代わりに言葉を返す。
「お母さんが一緒に遊んできなさいって」
少し怯えたふうな視線をこちらに向けながら語りかけてきた。
「うん……いいよ」
自分の家でもないのに、このセリフはどうかと思うが、あのときはそれが精一杯だった。
小学2年生とはいえ、異性に対してはこちらも初めは緊張するものだ。とはいえ、互いに緊張していては何も始まらない。
どうしたものかと立ちすくんでいたが、畳の上におかれたボードゲームを見た彼女のほうから話し始めてくれた。
「面白そう、これ、なーに?」
「あ、やってみる? 教えてあげるよ」
初めはそんな二言三言の会話だったが、慣れるにつれて互いに会話が盛り上がっていく。
彼女の名前は美佳(みか)。先ほどやってきた叔母さんの友達というのが、彼女のお母さんだ。お父さんが仕事に出ていて、ひとり家に置いていくこともできないので、連れられてこられたという。
会話を交わすうちに同じ小学二年生ということがわかり、学校の話題などを中心に少しずつ話を弾ませていった。
「宿題終わった? ケイちゃん」
「まだだよ、美佳ちゃんは?」
「私はあと日記だけ。あ……、読書感想文がまだだった」
「すごいなぁ、俺なんかまだ算数ドリルと作文と……、あー、読書感想文もまだだ。どんな本を読むかも決めてないよ」
「どんな本が好き?」
「本は…読むの苦手。あんまし読んだ事ないけど、図書室から5冊ぐらい借りてきた。その中から選ぼうと思ってるんだ」
「へぇ、いっぱい借りてきたんだね。私は2冊借りてきて、どっちも読んじゃったんだけど、本当に借りたかったのは友達に借りられちゃったんだ。だから友達が読み終わったら、それを借りて、感想文を書こうと思ってるの」
「本、好きなんだね。俺、読むのも苦手だけど、感想文を書くも苦手」
「苦手なものばっかりだね」
くすくすと笑う彼女が、子供ながらにかわいいと感じた。
2時間ほど経って、彼女のお母さんが僕たちのいる部屋にやってきた。どうやら"主婦の会合"は終わったようだ。遊びに夢中で気付かなかったが、外を見るととっくに雨が止んで、部屋には夕日が差し込んでいた。
玄関で彼女とそのお母さんを見送る。そっけない別れ。
遊んでいた部屋に戻ると、庭の先にある垣根の向こうに彼女の姿が見えた。
「またねー!」
そう言って手を振ると、彼女もにっこり笑って手を大きく振ってくれた。
"また"と言っても、ここは自分の家でもないし、実家から遠く離れた場所だ。彼女と会える機会はほとんど無いに等しい。でもそのときは、そこまで考えは至らなかった。
4日目。昨日の雨が嘘だったかのように晴れ、日差しの強い日となった。けれど海からの風が涼しく、さほど暑さは感じられなかった。
今日は魚を採ろうと思い河原にやってきてはみたが、先日の男の子たちは見当たらなかった。
残念に思いながらも、河原を背にして家を目指して歩き始める。二手に分かれる道へと到達する。帰り道なら右。でも今日は時間もあるので遠回りをしようと左の道を選んで歩くことにした。
何もかもが初めての風景。舗装されていない道。左右には大きな木が生い茂り、トンネルを作っている。サワサワと音を立てる木のトンネルをくぐりながら、自然の声に耳を傾ける。
しばらく進むとトンネルが終わり、曲がり角にやってきた。右へいけば叔母さんの家がある方角だ。正面には道が少しだけあるが、すぐに柵があって進めない。どうやらここは高台のようで、柵の先に小さく町並みが見える。そしてその先には海が見渡せるようになっている。せっかくなので、柵まで足を進めて海を見渡してみることにした。
そこは町並みが展望できる場所。今いる場所は、かなり高いところにあるようだ。怖さもあったが、ときおり吹く風が気持ちよかったので、しばらくたたずんでいた。
「あ、ケイちゃん!」
聞き覚えのある声に呼び止められた。振り向くと美佳ちゃんがいた。
「あ、美佳ちゃん!」
その言葉に、彼女が笑顔で駆け出してくる。
「やっぱりケイちゃんだ、ここで何してるのー?」
「友達と遊ぼうと思って川に行ったんだけど、見つからなかったんだ。だから家に帰ろうと思ってさ。でもここ、すごく気持ちいいから、海見てた」
「そうなんだー。私ね、ほら、本借りてきたんだ」
手に持っていた本を指差した。
「あ、昨日言ってたやつ? 友達から借りられたんだ」
「友達がね、先に読んでいいって言うから、借りに行ってたの」
「よかったねー」
「うん! これ、すごく読みたかったんだ」
2人して再会を喜ぶ。
「そうだ、そこに神社があるんだよ! 行ってみない?」
そう言って彼女が指を差した方向を見ると、すぐそこに鳥居が見えた。どうやらここは、町並みを展望する場所として作られたわけではなく、神社へ向かう道として作られたものだったようだ。
「こっち、こっち!」
彼女が私の手を引く。子供ながらに異性を気にするマセた私には、この行為に少し恥ずかしさを感じた。
鳥居をくぐると、すぐに賽銭箱が目に付いた。よく見れば寺のような建物もあった。雑草が生え、サビれた神社という印象だ。ここに何があるというのだろうか?
大きな木に囲まれたこの場所は、他の場所よりも暗く寒い。少し怖さも感じた。しかしそんな態度を女の子の前で見せるわけにもいかず、彼女の言うがままに賽銭箱の前までやってくる。
「ここでお願いしてみたら? そしたら本読むのも、感想文を書くのも苦手じゃなくなるかもよ」
「うん……。じゃぁ、お願いしてみる」
そうして賽銭はないものの、2人して手を合わせて拝み始める。
再び木々がサワサワと音を立てる。いくつもの木が大きく音を立てるので、驚いてそこで目を開けて拝み終える。横を向くと彼女はまだ合掌したまま目をつむっていた。
彼女の顔を覗くかのように首をかかげた瞬間、スッと目を開けてこちらに視線を送る。目が合ってドキッとする。
「美佳ちゃんもお願いしたの?」
「うん。ケイちゃんは、ちゃんとお願いできた?」
「うん……。美佳ちゃんは何をお願いしたの?」
その言葉にニッコリと笑う彼女。
「ないしょ」
クルリと背を向けて歩き始める。
「えー、教えてよー! なに、なに~!?」
彼女の背中に問いかけるが、彼女はこちらを振り向いて笑うだけだった。
そのまま2人で帰宅への道を歩く。
彼女の手にする本に興味が沸く。
「どうしてその本、そんなに読みたかったの? 面白いの?」
「ほら、見てー。表紙がかわいかったから!」
そう言って自慢気にこちらに表紙を見せる。題名は忘れたが、御伽話のようだった。それにしても分厚い本だ。同い年なのに、そんな厚い本を読むんだと関心した。
会話を弾ませていると、あっという間に叔母さんの家が見えてきた。
「ねぇ、明日には帰っちゃうんだよね」
「うん……。また会えるといいね」
「来年も来るの?」
「わかんない……」
「ふ~ん……」
少し悲しげな顔を見せる彼女。たった1、2度会っただけかもしれないが、仲良くなった友達と別れるのは辛いもの。河原で遊んだ男の子たちもそうだ。また来たい。そんな思いがあふれてくる。
「じゃあ、約束しようよ!」
「えっ? 約束?」
「うん。また会うって約束しよっ」
「でも、お母さんが行こうって言わないと、来れないよ、きっと」
「1人でも来れるようになったら、そのときに会おうよ、ねっ!」
「いつ?」
「いつかなぁー? 6年生じゃムリかなぁ?」
「ムリだよー、たぶん」
「じゃあ、どのくらい? 中学生なら平気? 高校生は?」
「ずいぶん先だね。でも高校生なら平気かも」
「それじゃー、高校生にしようか! ケイちゃんも私も7歳でしょー、ちょうど10年後は高校生だよ」
「そっかー! 17歳だったら大丈夫だね!」
「じゃぁ約束! ちょうど10年後にまた会いましょ!」
「うん、そういうの面白いね! じゃあ、10年後!!」
そう言って小指と小指を絡ませ、"指きりげんまん"をする。
「ちゃんと覚えててねー!!」
「うーん!! じゃーねー!」
大きく手を振って、2人の距離が遠のく。
夏の盛りのお昼どき。セミの声がけたたましく鳴り響いていた……。
次の日、朝早くから電車に乗り、自分の家へと帰ることになった。
電車の中から、夏の思い出をくれたこの街を物惜しげながら見送る。海のにおい、風の音……。そのすべてが体に残っている。
彼女と交わした約束の小指にも思い出が残る。(続)
2006-01-29 01:39
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コメント(4)
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こんばんわ!
う~ん・・・素晴らしい!
良くかけますね~自分は、3行書いた辺りで固まってしまいそう(笑
>以下の物語はフィクションです。
え?ノンフィクションじゃないの?
カルディアさんの遠い日の思い出・・・みたいな感じですね。
懐かしさというか、心の琴線に触れるような切なさを感じるような内容で、情景が見えてきます。
なんか・・・ゲーム化出来そうな感じですね~
続編の「再会?」も期待です!
by らいむ (2006-01-29 03:56)
カルディアさん、こんばんは。
よいですねぇ~。しみじみ・・・。
素直な文章で好感が持てます~(^^♪
続きも楽しみにしてます!
by 岩宮 (2006-01-29 17:28)
らいむさん>
こんにちはー(´▽`) niceありがとうございます!
>え?ノンフィクションじゃないの?
えーと、ご想像にお任せします(笑
フィクションものとして読んでください。
>なんか・・・ゲーム化出来そうな感じですね~
ゲームとしてはありふれた…というか使い古された展開かもしれませんが、よろしければその後もご覧いただければと思います。
by カルディア (2006-01-30 11:58)
岩宮さん>
こんにちは~(´▽`)
本格的にお勉強されている方からすれば、稚拙な文章でとても恥ずかしいですヽ(*´Д`*)ノ
好感持っていただけたと聞いて意欲が出てきました(笑 とりあえず最後まで書いてみますっ!
by カルディア (2006-01-30 11:58)