◆感想(ネタバレなし)
時代は1963年(昭和38年)。
まだまだ貧しさの残る雰囲気の中、数人の女性で共同生活をしている下宿で
炊事洗濯などをこなしながら高校に通う女の子、海(うみ)。
校内で突然出会う1つ上の少年、俊(しゅん)。
この2人を中心とした話だけれど、
文化部の部室がひしめき合った古い建物「カルチェラタン」が大きく物語に関わってくる。
これがまたすんごく汚い建物。
主観ながらそこはまるで「油屋(千と千尋)」を彷彿とさせる雰囲気があり、
ジブリお得意のゴチャゴチャした空間に興味をそそられることに。
建物の利用者がほぼ男子ってところも汚さの原因だけれど、
そこへ多数の女子が掃除に来てくれる展開があったりと、
まるで文化祭的なノリへと変化して、多いに心がくすぐられる。
こうした全校生徒を巻き込む流れってのは楽しいね。
そんな中、海と俊は互いに惹かれ合っていくものの、
出生の秘密が明らかとなり、悲しい現実に打ちひしがれることに。
まぁ、ここまでは「安いメロドラマ」なんだけれど、そこからさらなる展開が。
そしてラストは気持ち良く終われる形に。
正直、『ゲド戦記』より数百倍面白かったです。
とにかくお話が分かりやすいってのは良いですね。
これは最近のジブリ作品にとっては大きな強味かも。
背景は昭和なのでノスタルジックな雰囲気はあるけれど、そこが主旨ではない。
また冒険モノではなく、あくまでもヒューマンドラマ。
なので人によっては退屈になるかもしれないけれど、
所々で食いつく見せ場もあるため、自分は退屈せずに最後まで見られました。
正直、これが監督1作目であれば吾朗の評価はだいぶ違ったと思う。
「父親と違ってこういう雰囲気で描く方なんだね」と、
ジブリへの新しい風を視聴者が感じてくれたかもしれない。
しかし『ゲド』があってこの作品が2作目にくると、
どうにも色々な人の知恵を多分に借りたんじゃないかと疑ってしまうなと。
それぐらいまともなデキでした。
少しばかり成長が垣間見えたのは、その演出方法。
『ゲド』では、宮崎駿作品の様々な見せ場を寄せ集めただけのパクリ臭が強烈だったけれど、
今回はそうした父親の演出がなぜ良いのかを咀嚼し理解したうえで、
『コクリコ』なりの形でやんわりと使ってきている。
直接的ではなく、作品に合わせてここぞという場面にほんのり入れてくる感じ。
まだまだ未熟なところはあるけれど、見られる作品になっていることは間違い無いです。
◆総括
これ、ハマる人は結構ハマるかもね。
淡い初恋の切なさが伝わってくるため、
女性が見るとキュンとなるシーンが多々あるように思えました。
男性視点からは「カルチェラタン」の掃除展開にワクワクしたり。
男の巣窟に女子が勝ち気にワ~と押し寄せてお掃除してくれる。これたまらないね。
また終盤では何カ所か涙をそそられる部分もあり、
見る人の年代、性別によって、色々とフックする部分がある作品だと思えました。
BDが出たら買うかどうかで判断すると、買うまでには至りません。
ですが、TVで放映されたらもう一度見たい。録画して残しておこうと思える作品。
父親を脅かすほどではないけれど、私的には『ハウルの動く城』よりは好きです。
『ゲド』の悪評があるためスタート動員数は見込めないだろうけど、
話題の広がり次第ではどうなるか。
1つ言えることは、
吾朗、首が繋がったな!
ちなみに、調理&食事シーンが何度か出てくるので、
お腹は空かせていかないほうが良いですよ。